第14号 約束手形は怖い Part1
Aさんが、Bさんに手形を振り出しました。そして、満期になったので、BさんがAさん
に手形の支払い呈示しました。
しかし、その手形には、金額欄に「壱百円」と記載があり、その右上段に「\1,000,000」
との記載がありました。
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知ってて得する法律知識!実際の判例から解説! 第14号 2005・5・16
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さて、それでは本題に入りましょう。
みなさんは、手形、特に約束手形を見たことがありますか?最近では、商売をしている人
でも、ほとんど手形を使うことがなくなったので、ほとんど見る機会がなくなったと思い
ます。
私は、実家が商売をしてたいものですから、子供の時からよく約束手形を見ていました。
しかも、不渡り手形という最悪の手形もたくさん見てきましたo(;-_-メ;)o
でも、子供の時は何のことかよく分かっていませんでした。最近、勉強をしてようやく分
かってきたのですが、驚くのは手形を使っている人の中でも全然手形の知識の無い人が多
いということです。
まぁ、ちょっと使っているくらいで、手形のことを理解するのは無理なんでしょうが、少
し怖い気がします。
商工ローン最大手の日榮(現LOPROだったかな?)は手形をフル活用して、あそこま
で大きくなったようです。主に手形割引で稼いだらしいですけどね。今でも、貸し付けの
時には手形を利用しているようです。
なぜ、手形を使うかといえば、その方が債務者が必死になって返そうとするからです。ど
ういうことかといえば、手形は資金が足りないという理由で、2回不渡りを出せば帝国デ
ータバンクで知られてしまいます。すると、銀行から資金を調達できなくなります。どん
な大会社でも資金が調達できなければ、倒産しますよね。だから、ただの債務ではなく、
手形債務というのは債務者が必死になって弁済しようとするのです。
そういう理由もあって、日榮などは手形を利用しているのでしょう。
さて、前置きはこれくらいにして、今回の判例の紹介と解説に入ります。もちろん、これ
だけ手形の話をしてきたわけですから、今回は手形の判例です。
最高裁昭和61年7月10日の判例です。
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■■ 事件の概要 ■■
Aさんが、Bさんに手形を振り出しました。そして、満期になったので、BさんがAさん
に手形の支払い呈示しました。
しかし、その手形には、金額欄に「壱百円」と記載があり、その右上段に「\1,000,000」
との記載がありました。
そこで、この手形の金額欄が100円なのか、100万円なのかが争われた事案です。
※手形というのは、満期というのがあり、その手形に記載されている満期日にならないと
手形金を請求することができません。そして、満期日になると、その手形を相手方に対し
て見せて手形金を支払うことを請求します。これを、支払い呈示といいます。
■■ 争点 ■■
手形に金額の異なる文字による記載と数字による記載がある場合、文字による記載が明ら
かに誤記と認められる場合でも、手形法6条1項が適用され、文字による記載が手形金額
となるのか。
■■ 結論 ■■
本件手形上に記載された手形金額については、手形法6条1項を適用して右金額を100
円と解するのが相当である。
■■ 解説 ■■
1、手形法6条1項って何?
まず、何が問題なのかを理解するために手形法6条1項を見てみましょう。手形法は、か
なり古い法律なので未だにカタカナが使われていて読みにくいですが、頑張って読みまし
ょう。
手形法6条1項
「為替手形ノ金額ヲ文字及数字ヲ以テ記載シタル場合ニ於テ其ノ金額ニ差異アルトキハ文
字ヲ以テ記載シタル金額ヲ手形金額トス」
為替手形となっていますが、77条2項で約束手形に準用されていますので、為替手形を
約束手形と置き換えて読みます。
少し、読みにくいかもしれませんが、要するに、文字と数字で異なる金額が書かれている
場合には文字で書かれている金額を採用しますよ、ということです。
なぜ、このような条文があるかといえば、数字の場合は、「\1000」となっている最後
に0を一つ書けばそれで「\10000」となり、偽造がしやすいのです。
他方、同じ1000円でも、「壱千円」と書かれていれば、偽造しにくいですよね。だか
ら、文字の方が信用性が高いので、文字の方を適用しますよ、ということなのです。
手形では、偽造を防止するために、文字と数字の両方で金額を書くということがよくある
ようです。
2、じゃあ、本件では?
これを踏まえた上で、本件を見ると、数字では「1,000,000」となっていて100万円で
すよね。他方、文字の方を見ると「壱百円」となっていて、100円です。
これに、手形法6条1項をそのまま適用すると、文字が優先して適用されるのですから、
この手形は100円の手形ということになります。
でも、100円でわざわざ手形を振り出すという事は考えにくいですよね。そもそも、手
形には印紙を貼る必要があって、それの値段が100円を超えているんです。
これは誰が考えても、100万円の手形です。こんな場合には、手形法6条1項を適用す
る必要がないだろう、ということで裁判になったのが本件です。
3、結論
しかし、裁判所は、このような明らかに文字が誤記と認められるような場合でも手形法6
条1項を適用して文字の金額を適用するとして、この手形は100円の手形だと、判断し
たのです。
何てバカな判例だ!と思う方もいるかもしれません。しかし、さすが最高裁判所だ!と思
う理由があるのです。
それは、何かというと、そもそも手形というのは転々流通していくことが予定されている
ものです。つまり、本件ではAさん、Bさんしか登場しませんでしたが、Bさんは、Cさ
んに支払いの手段としてAさんが振り出した手形をCさんに渡すこともできるのです。
そして、CさんはDさんに、DさんはEさんにという感じでどんどん手形が人に渡ってい
くのです。しかも、手形は裏書譲渡といって、手形の裏面に署名するだけで、人に譲渡す
ることができるのです。
ですから、手形を受け取る人からすれば、手形を見ただけでこの手形がいくらの金額なの
かということがわからなければ安心して取引することができないわけです。いちいち、前
の人にどんどん遡って確認するということなどしていられないですし、そんなことをしな
ければいけないのであれば、手形の意味がないのです。
だから、手形はできるだけ、迅速かつ安全に取引できなければならないのです。これを、
法律の世界では「取引安全の保護」といいます。(ちなみに、反対の意味で「静的安全の
保護」という言葉もあります)
とすれば、できるだけ画一的に金額を決める方が、取引の安全を保護できる、ということ
は分かるでしょうか。
つまり、何があっても、文字と数字が異なっていれば文字を適用するとしておけば、誰が
見ても手形の金額がわかります。本件でいえば、誰がみても100円の手形と分かるので
す。
もし、本件のような場合で、「100円というのは絶対に間違えているから、今回は10
0万円にします。」、ということになれば、確かに今回の件だけにに関しては、うまく解
決できるかもしれません。
しかし、そんなことをすれば、どういう時には、文字が適用されて、どういう時には数字
が適用されるのか分からなくなりますよね。
明らかな誤記と認められる場合には、手形法6条1項は適用しません、というのでは、手
を受け取る人からすればとても怖いのです。
どういうことかといえば、今回のように、100円であれば、明らかに誤りとわかります。
しかし、じゃあ、1000円の場合は、明らかな誤記なの?1万円の場合は明かな誤記な
の?10万円の場合は明らかな誤記なの?ってことになり、はっきりとした基準がなくな
ります。
だから、判例は「今回の件に関しては、確かに、誤記とわかるけど、今後同じような事件
が起こった場合のことを考えると、画一的に6条1項を適用して解決した方が、究極的に
は手形取引の安全を保護することができるから、Bさんには悪いけど、今回も100円に
します。」と言ったのです。
手形を受け取る人からすれば、100円かな?100万円かな?と迷うようなことは、手
の流通を害するから全部画一的に判断する、としたのです。
■■ 最後に ■■
今回は少し長くなりました。ちょっとは、理解していただけたでしょうか。今回の話とは
直接関係ないですが、手形は、裏書譲渡というシステムがほんとに怖いので、簡単に裏書
はしないようにしましょう。
次回も、手形の話をしたいと思います。商売をしていて手形を使っている方は特に、しっ
かりと読んでくださいね。
■■ 今回の知ってて得する知識 ■■
手形に文字と数字で金額が書かれてて、その金額が異なる場合には、文字が適用される。
■■ 編集後記 ■■
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ここで紹介している判例は、発行当時のものです。法律は生き物ですから、難しい解釈が
されたり、判例変更がされている可能性もありますので、自分の責任で判断してください
。また、同じ事件など存在しないので、すべての場合にこのメルマガで紹介している判例
の結論になるわけでもありません。あくまで、参考にということでお願いします。
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