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第15号 約束手形が回された。手形は怖い!Part2

A工業の代表取締役社長であるXは、株式会社Bに対して手形を振り出しました。
その後、その手形はBからCへと裏書譲渡されました。

そこで、Cは満期にA工業に対して手形を支払い呈示して、手形金の請求をしました。

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知ってて得する法律知識!実際の判例から解説! 第15号 2005・5・18
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さて、それでは本題に入りましょう。

前回に引き続き、手形の話をしたいと思います。よく手形は恐いといわれますが、一体何
が恐いのでしょうか?

その理由はたくさんあるのですが、私は一番の理由は高度の流通性を持っていることだと
思います。前回もお話しましたが、手形はどんどん人に手渡されていくという性質を持っ
ています。しかも、裏書譲渡という手形の裏面に署名するだけで、どんどん手渡していく
ことができるのです。

そして、その手形の流通性を促進させるために、手形法はいろいろな制度を規定していま
す。そして、その制度の中で特に重要なものとして、善意取得(16条2項)人的抗弁
の切断(17条)
手形行為独立の原則(77条2項、7条)というものがあります。

うーん・・、わけわかりませんよね。とても日本語とは思えません。こういう、よくわか
らない言葉が「法律は難しい!」ということにつながっていると思います。

でも、安心してください。実際の事件を素材に解説すれば意外と簡単に理解することがで
きます。今回は、その中の一つである、善意取得というのを紹介します。

難しいから、読むのをやめようと思わないでくださいね\(^_^)/
できるだけ、わかりやすく説明するので最後までお付き合いください。

最高裁昭和35年1月12日の判決です。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
■■ 事件の概要 ■■


A工業の代表取締役社長であるXは、株式会社Bに対して手形を振り出しました。
その後、その手形はBからCへと裏書譲渡されました。

そこで、Cは満期にA工業に対して手形を支払い呈示して、手形金の請求をしました。

しかし、一つ問題がありました。A工業の代表取締役社長であるXが、B会社に振り出した
のは、全くB会社とは関係ないYが、自分はB会社の代理人だ、とだまして、それにだまさ
れたA工業の社長であるXが振り出したという事情があったのです。

つまり、YはB会社と何の関係もないのに、自分はB会社の代理人として手形を受け取りに
来たと言って、A工業の社長Xに手形を振り出させたのです。このような、代理権がないの
に代理権があるかのようなふりをしている人を無権代理人といいます。


ちょっと整理しましょう。


A工業 −−−ーーー−→ B会社  ーーーーー→ C
社長X   振り出し   代理人Y   裏書    

              ↑
            Yは無権代理人   


このような場合に、CはA工業に対して手形金の請求をすることができるのか、ということ
で争われたのが本件です。


■■ 争点 ■■


無権代理人から譲り受けた場合でも、善意取得(16条2項)は適用されるか。


■■ 結論 ■■


適用される。


■■ 解説 ■■


1、Xはだまされたから、取消しができる


まず、XはだまされてYに対して手形を振り出したわけですから、当然取り消すことがで
きます。これを詐欺取消しといいます(民法96条1項)。

取消しがされれば、初めから契約はなかったことになりますので、Cは手形の権利を取得
できないので、当然Aに手形金を請求することもできないのが原則です。

ただ、大きな問題があって、取り消したのはいいけど、手形を取り戻せていないんですよ
ね。

取り消した後、Cに譲渡されて、現在手形を持っているのはCです。しかも、Cは裏書に
よって手形を取得した時に、Yが詐欺をしていたなんて事情は知らなかったのです。

このようなCのことを、法律用語では「善意の第三者」といいます。反対の意味で、「悪
意」という言葉もあるのですが、「いい人」「悪い人」という意味ではなくて、ある事情
を知らないことを「善意」、知っていることを「悪意」といいます。

本件で、もしCがYが詐欺をしていたという事情を知っていれば、Cは「悪意の第三者」
ということになります。


2、XとC、どっちが悪い?


さて、分かりやすく説明するために、皆さんには今から、Xの立場、Cの立場に立ってい
ただきます。

まず、みなさんがXの立場だったとしたら、当然こういうことを言いますよね。「オレは、
手形を振り出したけど、Yに騙されてしたことだから、取り消した。だから、手形金を払う
必要はないし、早く手形を返してくれ。」

次に、Cの立場だったとしたら、こう言いますよね。「オレは、そんな事情は知らん。ちゃ
んと裏書譲渡で手形を取得したんだから、金を払え。」

どっちも、正しいことを言っていますよね。そりゃ、そうですよね。悪いのは詐欺をしたY
で、XもCも悪くないんですから。

でも、二人の主張していることは矛盾していますから、どっちかの主張を認めて、どっちか
には泣いてもらわないと解決できません。

じゃあ、どっちが勝つの?ということですが、判例はCが勝つという判断をしたのです。

そして、その理由が手形の流通性を促進するために規定されている16条2項なのです。

16条2項は、たぶん読んでも理解できないと思いますので、ここでは紹介しません。一
番下に掲載しておきますので、興味のある方は一度読んでみてください。


3、結論


結局、善意取得とは何なのかというと、たとえ、自分の前の人達の間に詐欺などいろいろ
な事情があったとしても、そんなことを知らずに裏書譲渡で手形を取得した者は、前にあ
った事情に関係なく手形金を請求できるということです。

これが、手形の流通性という、手形の恐いところなのです。

今回は、詐欺の話でしたが、他によくある話としては、手形を盗まれた場合、途中で誰か
が無断で金額を書き換えた場合など、があります。

そして、盗んだ人や、勝手に金額を書き換えた人は自分で請求せずに、どんどん人に裏書
譲渡で手渡していくのです。すると、どこで誰が盗んだのか、だれが金額を書き変えたの
かがわからなくなり、誰かのところで、善意取得が成立してしまうのです。

一度、誰かのところで善意取得が成立してしまうと、振出人は、どんな理由があっても払
わなければならなくなってしまうわけです。

これが手形が恐いといわれている一つの理由だと思います。みなさんも、手形を使う時は
気をつけましょう。


4、ちなみに詐欺をしたYは?


もちろん、本件で詐欺をしたYに対しては、いろいろな請求をすることができます。損害賠
償請求をすることもできます。

ただし、現実問題としては、不可能だと思います。なぜなら、Yはとっくに逃げてしまって
いるからですね。何かをしたらすぐに身を隠すというのが裏の世界ではセオリーです。

また、盗んだ手形や、金額を書き変えた手形などを、誰かが善意取得するということも、意
図的になされることもあるようです。同じグループの仲間内で手形をぐるぐると回すという
方法で、どこかで誰かに善意取得させるという方法があるようですので、注意しましょう。

〜参考条文〜
※16条2項
 事由ノ何タルヲ問ハズ為替手形ノ占有ヲ失ヒタル者アル場合ニ於テ所持人カ前項ノ規定ニ
 因リ其ノ権利ヲ証明スルトキハ手形ヲ返還スル義務ヲ負フコトナシ但シ所持人カ悪意又ハ
 重大ナル過失ニ因リ之ヲ取得シタルトキハ此ノ限ニ在ラズ

 ↑この条文はかなり意味が読み取りにくいです。


■■ 最後に ■■


手形は、かなり難しいです。他にもまだまだ紹介したい話があるのですが、また次の機会
にしようと思います。

それから、今回の話ですが、いくら手形が恐いといっても便利な部分もありますし、実際
は偽造することも難しいので、いつもいつもこんな事件が起こっているのではないという
ことは知っておいてください。

裁判になれば、いろいろと面倒ですし、いつもいつも善意取得が成立するとは限りません。
もし、こういう被害に遭われた方がいましたら、あきらめずにすぐに弁護士に相談して戦
ってくださいね。


■■ 今回の知ってて得する知識 ■■


無権代理人から裏書譲渡を受けた場合でも、善意取得は成立する。


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ここで紹介している判例は、発行当時のものです。法律は生き物ですから、難しい解釈が
されたり、判例変更がされている可能性もありますので、自分の責任で判断してください
。また、同じ事件など存在しないので、すべての場合にこのメルマガで紹介している判例
の結論になるわけでもありません。あくまで、参考にということでお願いします。


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