第29号 女の子を裸にして写真を撮ってもわいせつ罪にならない?
被告人甲は、自分の妻である乙女をそそのかして、東京方面に逃がした丙女をこらしめる
べく、自分の部屋に呼び出しました。
そして、自分の部屋で、2時間にわたり硫酸をかけるなどと言って脅迫し、丙女に裸にな
るように命令しました。そして、裸になった丙女の体を写真撮影しました。
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知ってて得する法律知識!実際の判例から解説! 第29号 2005・9・30
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---------- 目次 --------------------------------------------------------
1、第1章 はじめに
2、第2章 本題
(事件の概要、争点、結論、解説、最後に、今日の得する法律知識)
3、第3章 編集後記
4、第4章 注意
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■■ 第1章 はじめに ■■
こんばんわ。夜中の配信です。そろそろ寝ないとやばいかな、と思いながらも、あまりに
も発行が滞っていたので、発行することにしました。
今日は、深い話をすると、すごく難しいので、とりあえず、判例の結論だけ知識として知
っておいてもらおうと思います。
おそらく、みなさんの常識とはかけ離れていると判例だと思います。ただ、深く考えると
それなりの理由があるのですが。
それから、私が発行しているもう一つのメルマガである「毎日3分!条文+豆知識で民法
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■■ 第2章 本題 ■■
さて、それでは始めましょう。わいせつ関係の事件に関する判例です。昭和45年1月2
9日の最高裁判所の判例です。
■■ 事件の概要 ■■
被告人甲は、自分の妻である乙女をそそのかして、東京方面に逃がした丙女をこらしめる
べく、自分の部屋に呼び出しました。
そして、自分の部屋で、2時間にわたり硫酸をかけるなどと言って脅迫し、丙女に裸にな
るように命令しました。そして、裸になった丙女の体を写真撮影しました。
その時、被告人甲は、わいせつな目的で、服を脱がして写真を撮ったわけではなく、報復
・仕返しの目的で写真を撮影したという事件です。
■■ 争点 ■■
刑法176条の強制わいせつ罪が成立するためには、主観的要件として、わいせつの意図
又は傾向が必要か。
つまり、わいせつ罪が成立するには、本人が「やらしい目的」を持っていたことが必要か
、ということです。
■■ 結論 ■■
強制わいせつ罪が成立するためには、本人が「やらしい目的」を持っていることが必要で
ある。
以下、判旨抜粋
「刑法176条前段のいわゆる強制わいせつ罪が成立するためには、その行為が犯人の性
欲を刺激興奮させまたは満足させるという性的意図のもとに行われることを要し、婦女を
脅迫し裸にして撮影する行為であっても、これが専らその婦女に報復し、または、侮辱し
、虐待する目的に出たときは、強要罪その他の罪を構成するのは格別、強制わいせつの罪
は成立しないものというべきである。」
■■ 解説 ■■
さて、どうでしょう。難しいので、少し解説します。
まず、法律の勉強をするのに、条文を見ることは極めて重要なので、まず、176条を見
ておきましょう。
刑法176条前段
13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上1
0年以下の懲役に処する。
この条文を一つずつ見ていきましょう。
まず、「暴行又は脅迫を用いて」とあります。本件の被告人甲は、硫酸をかける、などと
言って脅迫しているので、この点は問題ありません。
次に、裸にして、写真を撮っているので、「わいせつな行為」もしています。
ということになれば、条文に書いてあることは全部やっているわけです。つまり、強制わ
いせつ罪が成立するようにも思えます。
だって、どこにも、「やらしい目的や傾向をもって、わいせつな行為をした者は・・」な
んて書いてないですよね。
でも、判例は本件において強制わいせつ罪は成立しないとしました。
その理由として、強制わいせつ罪が成立するためには、条文には書いていないけど、本人
が「やらしい目的」を持っていることが必要なんだ、と言ったのです。
このように、犯罪が成立するために、本人の一定の傾向が必要な犯罪を傾向犯といいます
。
どう思いますか。普通に考えればおかしいですよね。現にこの判例に反対している有力説
もあります。
丙女からすれば、甲がどういう目的であったにせよ、自分は裸にされて写真を撮られたん
だから、強制わいせつ罪で、刑務所にぶちこんでくれ!と思いますよね。
でも、よく考えてください。
例えば、乳がんの検査などで、医者は女性の胸をさわるわけですよね。これって、思いっ
きりわいせつな行為ですよね。でも、わいせつ罪は成立しません。
なぜなら、医者は「やらしい目的や傾向」で胸をさわっているわけではないからです。患
者を助けたいという気持ちで胸を触っているからです。つまり、「やらしい目的」がない
から、わいせつ罪は成立しないのです。
これが、もし、強制わいせつ罪が成立するために、「やらしい目的」が必要ではない、と
いうことになれば、全ての医者がわいせつ罪になってしまいます。
これは問題です。すなわち、判例は何でもかんでも犯罪が成立するのは、妥当でないとい
うことで、わいせつ罪が成立するためには「やらしい目的をもっていること」という要件
を要求して、犯罪の成立に絞りをかけているわけです。
ただ、被害者からすると、そんなのはどっちでもいいわけで、裸にされたことに変わりは
ありません。
ですから、判例の考え方が正しいのか、それに反対する有力説がいいのか、これは、今後
議論する余地はあるのでしょう。まぁ、判例の結論だけ覚えておいてください。
ちなみに、強制わいせつ罪が成立しないからといって、無罪ではありませんから注意して
くださいね。硫酸をかけるなどと言って、裸にさせた。つまり義務がないことをさせたと
いうことで、強要罪は成立します。
■■ 最後に ■■
今日、紹介した、判例の立場と、それに反対する有力説はほんとに激しく対立しています
。深く考えると、めちゃくちゃ難しい話になります。
さきほど、医者が患者の胸を触った・・・、という話も実はあまり説得的な理由になって
いないのが現実です。
でも、そういう深い話を考えるのは、学者の仕事なので、これくらいにしておきましょう
。
■■ 今回の知ってて得する法律知識 ■■
強制わいせつ罪が成立するには、その行為が犯人の性欲を刺激興奮させまたは満足させる
という性的意図のもとに行われることが必要である。
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■■ 第3章 編集後記 ■■
さきほど、法律の勉強をするのに条文を見るのは、極めて重要だといいました。
やる気のある、読者さんは、六法を1冊買ってみるのもいいかと思います。
六法だけを読んでも、たぶん全く意味がわからないと思いますが、このメルマガを読んで
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ほんとうに余談になりますが、日本の法律を作っているのは、ほとんどが官僚です。国会
議員は、法律を作るのが仕事でありながら、ほとんど法律を作っていません。というより
も法律を作る能力がある人がほとんどいないのです。
その日本の法律を作っている、官僚になるための試験である国家公務員1種試験というの
があるのですが、ほとんどの受験生が六法を見ずに法律の勉強をして合格しているようで
す。
法律を作っている人たちが、あまり六法を見たことがない。少し怖い気がしますね。ただ
、刑罰がある法律、例えば刑法などは、司法試験に受かったような人ばかりで構成されて
いる内閣法制局が作っていることが多いようなので、そういう意味では、うまくできてい
るのかな、という気がします。
官僚は、法律だけでなく幅広い知識と能力が要求されているので役割が違うのでしょう。
何でも、役割分担というのは大事ですね。
■■ 第4章 注意 ■■
このメルマガは実際の判例を素材にしていますので、もっと詳しく知りたいという方は最
高裁判所のホームページを見れば紹介されていますので、見てみてください。星の数ほど
判例はあるので検索するのに苦労するかもしれませんが・・・。
ここで紹介している判例は、発行当時のものです。法律は生き物ですから、難しい解釈が
されたり、判例変更がされている可能性もありますので、自分の責任で判断してください
。また、同じ事件など存在しないので、すべての場合にこのメルマガで紹介している判例
の結論になるわけでもありません。あくまで、参考にということでお願いします。
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